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浅草の名店「初小川(はつおがわ)」は、東京都台東区雷門に位置し、明治40年(1907年)の創業以来、一世紀以上にわたり
鰻料理を専門に提供してきた老舗である。店舗は昭和20年に建てられた細長い木造建築で、その佇まいからは戦後間もない
時代の雰囲気が色濃く漂っており、まるで時間が止まったかのような趣がある。建物内には、手前に6人が座れるテーブル席、
入口付近の小上がり、そして奥には4人用の座敷が配置され、限られた空間ながらも落ち着いた雰囲気を醸し出している。
壁面には相撲番付や歌舞伎のポスター、浮世絵、力士の手形色紙などが整然と飾られ、浅草という土地柄と相まって、まさに
江戸情緒を感じさせる設えとなっている。時代を経たそれらの品々は、ただの装飾ではなく、初小川が地域とともに歩んできた
歴史の証左でもある。中でも、商売繁盛を願う熊手だけは鮮やかな彩りを保っており、店の活気と信念が現在も息づいている
ことを象徴している。
初小川の最大の特徴は、伝統を守り続ける鰻の調理法にある。注文を受けてから生きた鰻を裂き、蒸してから焼くという
江戸前の手法を現在も踏襲しており、その調理には時間と手間が惜しみなく注がれている。焼きには七輪の炭火を用い、
遠火でじっくりと焼き上げることで、余分な脂が落ち、ふっくらとした食感とともに香ばしさが引き立つ。使用されるタレは、
創業当時から代々継ぎ足してきたもので、醤油の効いたやや辛口の味わいが、鰻の旨味を一層引き立てている。
看板料理である鰻重は、鰻が1尾半のせられ、上品で繊細な味わいが口中に広がる逸品である。焼き加減は絶妙で、小ぶり
ながらも鰻の持つ旨味と新鮮さをしっかりと感じることができる。料理はすべて店主の息子が奥で担当しており、その丁寧な
仕事ぶりが味に現れている。また、カブト焼きやキモ焼きといった希少な部位も人気があるが、これらは当日の仕入れ状況
によって提供が限られるため、運が良ければ味わえる逸品である。
初小川の営業は現金のみの取り扱いで、クレジットカードや電子決済は利用できない。このような点にも、時代の変化に
流されない店の姿勢が表れている。店は現在、女将とその息子たちによって営まれており、家庭的で温かい接客もこの店の
魅力の一つである。屋号の「初小川」は、初代の名「初太郎」と、鰻の棲む小川を重ねたものであり、名前の由来にも趣がある。
浅草という歴史ある街の一角で、古き良き昭和の空気をまといながら、変わらぬ味と丁寧な仕事で鰻料理を提供し続ける
初小川は、単なる飲食店にとどまらず、日本の食文化と下町の心意気を体現する存在である。訪れる際は、時間にゆとりを
持ち、焼き上がりを待ちながら静かに店の空気を味わうのが、この店の流儀である。
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